近年、静かなブームを呼んでいるSUP(スタンドアップパドルボード)フィッシング。カヌーや2馬力ボートと比較して、その最大の魅力はなんと言っても持ち運びの手軽さでしょう。空気を入れて膨らませるインフレータブルSUPの登場により、車に積んで気軽にフィールドへアクセスできるようになりました。さらに、比較的安価なモデルも市場に出回るようになり、より多くの人がこの新しい釣りのスタイルを始めやすくなっています。
しかし、その手軽さの裏には、決して無視できないリスクも潜んでいます。パドル一本で広大な海原へと漕ぎ出すSUPフィッシングは、一度転覆してしまうと、大切なタックルが水没してしまうだけでなく、自力での帰還が困難になる可能性も孕んでいます。だからこそ、SUPフィッシングに挑むには、確かな知識、そして何よりも過剰なほどの警戒心と注意力が求められるのです。
それでも、こうしたリスクがあるからこそ、SUPフィッシングは他の釣りでは決して味わうことのできない、格別な魅力に満ち溢れています。水面を滑るように進む開放感、魚との距離が近いことによるダイレクトな引き味、そして何よりも、自分の力だけで辿り着いたポイントで釣り上げる魚の価値は、まさにプライスレスです。
そんな魅力に取り憑かれ、地元高松の海でSUPフィッシングを始めて早5年。 情報も経験者もいない、まさにゼロの状態からこの釣りをスタートしました。右も左も分からない手探り状態から、SUPの購入、安全対策、ポイントの開拓、そして念願の初釣果を得るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでしたが、その過程には多くの発見と喜びがありました。
そこで今回から数回にわたり、「Re:ゼロから始めるSUPフィッシング」と題して、私の実体験に基づいたSUPフィッシングの始め方、必要な装備、安全対策、そして高松の海での釣果などを赤裸々に綴っていきたいと思います。これからSUPフィッシングを始めたいと考えている方、興味はあるけれど何から始めれば良いか分からないという方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
私が初めてSUPに乗ったのは、今から5年前のことでした。偶然知り合った方が所有していたスターボード製のツーリング用SUPを、好奇心から試しに貸してもらったのがきっかけです。
初めてSUPに乗った時の印象は、それまで経験のあったサーフィンで使用していたサーフボードに比べて、ボードの幅が広く、驚くほど安定しているということでした。立ってパドルを漕ぐのも、最初は少し戸惑いましたが、すぐにコツを掴むことができ、思ったよりもずっと容易だと感じました。水面を自分の力で自由に移動できる感覚は、まさに新体験。「これなら十分に海での移動手段として使える!」と、SUPの可能性に強い確信を抱きました。
SUPの楽しさを知ってしまった私は、どうしても自分のSUPを手に入れたいという強い衝動に駆られました。そんな時、地元でアウトドア用品大手のモンベルがSUPの取り扱いを始めたという情報を耳にし、早速店舗へと足を運びました。
しかし、そこで目にしたSUPの価格は、なんと10万円を超えるという驚きの金額でした。当時の私にとって、それは到底手が届くものではなく、夢破れてすごすごとお店を後にしたのでした。
高価なSUPボードに早くも諦めかけた私でしたが、ここで、ある種の「裏技」的なアイデアが頭をよぎりました。必ずしも高価なメーカー物を選ぶ必要はないのではないか?まずは使い捨てのつもりで、安価な中華製のSUPを購入してみるのはどうだろうか?
当時、日本でも徐々に普及し始めていた中国発のオンラインショッピングサイト、アリエクスプレスで「SUP」と検索してみると、驚くべき光景が広がっていました。日本のSUPレンタルショップでも使用されているような本格的なSUPボードが、送料込みでも3~4万円という破格の値段で販売されているではありませんか!これなら、なんとか手が届く価格です。
多少の不安はありましたが、「ダメ元」という気持ちで、思い切ってSUPボードを注文してみることにしました。
大型商品であるにも関わらず、注文からわずか1週間程度で、中国から私の元へとSUPボードが届けられました。梱包も丁寧で、心配していた破損や欠品も一切なく、ついに念願のMYボードを手に入れることができたのです。
この物語は、SUPフィッシングという新たな扉を開いた、一人の男の冒険の始まりの記録です。無謀とも思える挑戦でしたが、そこには確かな希望と、未知の世界へのワクワク感が溢れていました。
もしあなたが今、何か新しいことを始めたいけれど、一歩踏み出す勇気が出ないと感じているなら、この物語が少しでもあなたの背中を押す力になれば幸いです。
Re:ゼロから始めるSUPフィッシング。 次回は、購入した激安SUPの使い心地や、初めての海への挑戦について綴っていきたいと思います。どうぞお楽しみに。