週末の早朝、最近調子の良いコノシロ付きのシーバスを狙いに、地元の波止へ向かった。この日も、早朝から多くの釣り人が訪れており、波止の先端はすでに満員だった。
仕方なく、足場の良い波止の付け根付近でルアーをキャストすると、ちょうど魚が回遊してきたのか、立て続けに良いサイズが釣れた。
開始から1時間ほどで納竿しようと、ストリンガーに繋いでいた魚を上げていると、通りかかった車がシーバスを上げているのに気づいたのか、すぐそばに停車し、中から女性が出てきた。
ここ数年、このような光景は珍しくなく、度々あることだった。「また来たか」と思いながら、遅れて連れの男性が来るのだろうと予想した。良いタイミングで来たな、今日は帰るから場所を譲って、楽しんでもらおう、そう考えていると、女性が大きな声で話しかけてきた。
「おはようございます。すみません、横に入ってもいいですか?」
魚の血抜きが終わったら帰るつもりだったので、「ここでやってください。さっきから沖合でコノシロが時々当たるので、まだチャンスはありますよ」と答えると、女性はひどく感謝した。たまにはこういうのも悪くないな、と思いながら、釣った魚をクーラーに入れ、片付けを始めた。
早朝から釣りをするために来たり、きちんと挨拶をして入ってくるあたり、相当な釣り人なのだろう。最近はこういう女性も増えてきたな、そう思いながら先ほどの女性の方を見ると、
度肝を抜かれた。
なんと、
5フィートほどのメバルロッドのような細いロッドに、私が使っていたものより一回り大きい
ジョイクロ178をつけて投げようとしている。
それどころか、思いっきりテイクバックを取って投げようとしている。
「ちょ、待てよ……」
今まで考えていた玄人像が一気に崩壊する。
「や、やばいんじゃないか、これ」
早く誰か止めてあげてくれ、なんだか間違ったことになっているぞ!
誕生日にメバルロッドでももらったのか?せっかくのロッドだが、こんなことをしたらひとたまりもない。これは止めさせなければ!
「ストップ!何を投げようとしているんですか?いくらなんでもやりすぎですよ!」
私の声が聞こえたのか、女性はキャストを止めた。
「え?何か間違っていますか?」
先ほどまでの声とトーンが違う。なんだか怪しいおじさんだと思われているが、せっかく誕生日プレゼントでもらったロッド(勝手に決めつけている)を折られても困る。
「いやいや、ちょっとロッドがビッグベイトを投げるには細すぎますよ!ジョイクロなら50gくらいのルアーをキャストできるロッドでないと、さっきみたいにテイクバックを取って振ると粉々になりますよ」と伝えると意外な答えが返ってきた。
「ちゃんとビッグベイトを投げられるロッドですよ!」
「いやいや、お姉さん、そんな無茶苦茶なことを言ったらダメですよ。どう見ても5フィートのメバルロッドみたいな細いロッドじゃないですか。ロッドの表面にはキャストできる適正ウェイトの記入があるので、それ以内にした方が大事に使えますよ」
と、女性のロッドのウェイト表記を見ると、ひっくり返った。
なんと、0.5g〜12kgと書いてあったのだ。
「あ、すみません。本当に投げられるロッドだったんですね。失礼しました」
信じられないが、表記には確かにkgと書いてある。多分、アリエクか何かの過剰表記をしているロッドなのだろう。以前にもドラグ力200kgのベイトリールを見かけたこともあるし、中華恐るべし。多分、彼氏が今話題の中華マニアで、めちゃくちゃな表記のロッドを買ってプレゼントしたのだろう。そのロッドも今日で終わりか……。
「い、いや、良いロッドですね。こんなのもあるんですね。大事に使ってくださいね」
多分、かなりヤバい奴だ。目の前でロッドが粉々になるのを目撃する前に、さっさと帰ろうと考えていると、たまたまそのロッドについていたリールが目に入った。なんと、リールにはこれまたメバル用かと思われる細いラインが巻かれていたのだ。多分0.3号あたりだろう。
もう完全にヤバイ使い方なのは間違いないが、この細い糸なら1投目でラインが切れて、ルアーが後ろに飛んでいくのではないか……。
後ろ、後ろ……。
思いっきり私の車の位置じゃないか!
ヤバい、これは止めさせないと!そう考えながら女性の方を見ると、すでにキャスト体制に入っていた。
「げっ、遅かった!」
このままでは私の車にジョイクロが突き刺さる。
「あーあ……」
目を覆いたくなる。
が、なんとロッドが折れることも、ラインが切れることもなく、恐ろしい勢いでジョイクロが飛んでいく。ゆうに私の倍以上の飛距離が出ているではないか。
あっけに取られていると、畳みかけるように1投目でシーバスがヒット!サイズもそれなりにあるようだ。さすがにロッドも大きく曲がり、よいしょ、よいしょと変わった掛け声を上げながらリールを巻いて魚を寄せようとしている女性。
「いやいやいや、いくらなんでも、ここまで偶然破損なしで来ているけど、さすがにこれ以上は……」
「ネット入れましょうか?」と声をかけると、
「あっ、大丈夫です。このくらいなら抜き上げられるので」と返事が返ってきた。
「ちょ、もうわけがわからないんですけど。そのラインで抜き上げ?いくらなんでも無茶ですよ」
「あっ、遠慮しないで。ネット入れますよ」
と水面にネットを出し、後ろから入れようとするも、
「大丈夫です。いつもやっているので」と、ロッドを立てて無理やり魚を吊り上げようとする。
「ああ、折れる……」
そう思うも、不思議なことに魚が宙を舞い、防波堤に引きずり上げられた。
もう何がなんだかわからないまま、上がってきたのは丸々と太ったシーバス。
「すごいですね、こんな細いロッドとラインでよく獲れましたね」と話しかけると、
「え?そんな細くないですよ」
一体どこのロッドとラインなのか気になって仕方がないので、「あのー、もしよかったら使っているメーカーとか教えてもらっていいですか?」と聞くと、
「いいですよ。彼氏に買ってもらったやつなんですけど。ロッドはNVIDIAラインはスペースXです」
「あの、すみません。ちょっと気になったんですけど、そのロッドとライン、本当にそのスペックなんですか?」
「え?もちろんですよ。彼氏が言うには、NASAの技術が使われているとか…。」
「NASA…ですか?」
私は、彼女の言葉に耳を疑いました。NASAの技術が使われた釣り道具なんて、聞いたことがありません。もしかしたら、彼女はとんでもない勘違いをしているのかもしれない。
「あの、もしかしたら、それは…。」
私は、彼女に真実を伝えようとしましたが、彼女は笑顔で言いました。
「大丈夫ですよ!彼氏を信じてますから!」
彼女の笑顔は、あまりにも眩しく、私はそれ以上何も言えませんでした。